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コラムの泉

労災かくし

カテゴリ
労務管理  >  労災保険  /  労働安全衛生
最終更新日
2013年02月06日 15:15
著者
原 労務安全衛生管理コンサルタント事務所 さん
ポイント
299,611ポイント
ポイントランキング100

以前、監督署に勤務していた時に、地元の建設業協会の広報誌に

掲載した文書です。

参考になると思いますので、掲載してみました。



平成19年4月に横須賀署から川崎南署へ異動となり,神奈川に赴任して以来はじめて「都会の

街」の勤務となりました。


これまで,横須賀や大船,厚木,藤沢など,なんとなく中心から外れたようなのんびりした雰囲気

の勤務地ばかりでした。


140万人近く住む川崎市の中心の街であり,高層の建物の間を人波にもまれながら職場までい

く日々に,慣れることができずにいました。



 川崎南署に勤務して1ヶ月経過した頃,1本の電話が入ってきました。

 声の主は,労働者の父親ということでした。

19歳の自分の息子が,半年ほど前,管内の住宅解体工事現場で働いている最中,重機のキャ

タピラに足を踏まれ,ダンプで病院に搬送されたが,健康保険を使い入院し,休業補償も受けな

かったとのことでした。


 話の内容から,典型的な労災かくし事案であると判断し,すぐに現地に向いました。


 現地では,半年の月日の経過を感じさせるように,木造3階建ての建築物が建っており,左官工

事を行う2名が手直しを行っていました。

 住宅解体工事の場合,ハウスメーカーなどが解体,整地,新築工事まであわせて請け負ってい

ることが多いようですが,解体の時期には,元請の巡回がほとんど行われていないため,事故を

元請が把握していないことが少なくありません。

その結果,事故を起こした業者は,今後の受注の減少をおそれ,元請に事故を報告せずに労災

かくしになってしまうようです。


今回も,そのような解体業者の典型例だろうと考え,左官さんに元請を尋ね,施工業者が川崎市

内にあることを確認しました。


市役所で,解体工事に関するリサイクル法の届出を確認したところ,もともとはRCの3階建ての

建物が建っていたことがわかりました。届出書類には,解体専門の業者の名前しかなく,事故を

起こした業者はおろか,元請の名前すらありませんでした。


そのまま施工業者の事務所に行って,契約関係などの書類の提出を受けましたが,元請は,事

故を起こした会社を把握しておらず,東京の業者に解体工事を任せっきりにしてしまっていまし

た。


解体専門の業者から事情を聞き,ようやく契約の全貌が明らかになりましたが,解体工事を請け

負ったのに現場にほとんど行くことはなく,事故の把握はしていませんでした。


ここまで調べ上げた上で,労災かくしを行った業者に連絡をつけると,観念して詫びを入れてくる

経営者がほとんどでした。


この経営者は,事故があって入院していたことを認めたものの,詫びどころか,けがをした労働者

の問題点を並べ立て,『こちらが被害者だ』と言わんばかりの感じでした。


被災労働者は,偽名を使っていたために,労災保険を使おうとしたが使えなかったために健康保

険を使わざるを得なかったという主張を繰り返していました。


その後,同僚や事務担当など関係者から話を聞いて,名前が違っていたことには間違いありませ

んでしたが,養子縁組前の旧苗字を使っていただけのことでした。


そもそも仕事中のけがは,健康保険を使うことが出来ず,労災保険を使用するか,全額『元請』に

より費用負担を行うかのいずれかで処置をする必要があるのですが,「名前が違った」としても,

労災申請があれば処理されてしまうはずです。


関係者に対しては,偽名であったため労災を使うことが出来なかったと説明していた経営者も,い

ざ,正式に事情聴取を開始したところ,そのようなことも言わず,「病院の窓口が勝手に手続きを

取ってしまったことであり,システムはよくわからなかった」と,発言を翻す次第でした。


さらに,やめてしまった現場の監督や,事務担当者が勝手にやったことと,他の従業員に責任を

押し付けるような供述を自信たっぷりの口調で繰り返していました。

しかし,こちらの把握している情報を小出しに伝えていくと,少しずつ自信をなくした様子で,「よく

覚えていない」「記憶が定かでない」など,逃げるような供述に変わっていきました。


私は,これ以上の供述を引き出すことは出来ませんでした。しかし,周りの裏づけから,経営者が

うそをついていることの心証が得られ,一部否認のまま検察庁に送致しました。


担当した検事も,経営者の悪質性を感じたのか,殺人や偽造紙幣などの事件を抱えながら,すぐ

に聴取してもらえました。


その後,検事から連絡を受け,「自白したので再聴取するように」という指示を受けました。

私は,間違った犯罪者を作り出さずによかったと非常にほっとした気持ちの反面,なぜ聞きだすこ

とが出来なかったのか,自分の能力のなさを痛感してしまいました。

そのような気持ちの中,経営者を再び呼び出して話を伺いました。

経営者は,すでに観念しきった様子であり,こちらの質問に,すらすらと答えました。うそをついた

のも,責任をなすり付けようとしたのではなく,うまくだませるのではないかという気持ちからと言う

ことでした。

その後しばらくして,経営者と法人が罰金刑になったとの通知を受けました。



ここ最近は,労災かくし事件を送検した場合,起訴猶予にならずに刑罰が科せられる傾向にある

ようです。

労災かくしが発覚して刑罰が課せられてしまうと,さまざまな面でデメリットが出てきます。刑罰そ

のもの以外にも,元請との取引関係も継続できなくなるケースもあるし,許可業者であれば,国土

交通省に対して通報されて行政処分が課せられてしまうこともあります。労働者に対して多額の

解決金を支払わなければならないこともあります。


また,報告しないために再発防止が不十分になりやすく,再び事故になることも多いのです。その

ため,またかくさなくてはなりません。更にもっと大きな事故になってしまうかもしれません。

被災者にとっては,健康保険の使用という詐欺行為に加担させられたり,一時的な費用負担が出

たり,治療が不十分のまま仕事に復帰させられたり,さらに後遺症が残りやすくなったりと,全く良

いことがありません。



平成19年以降,川崎南署では6件の労災かくし事件を送検しています。

事件を送検する都度,記者発表を行い,注意喚起を促しているのですが,それでも,労災かくしが

後を絶ちません。


私も,この事件を送った直後に新たな労災かくし事件が発覚して,また担当することになりまし

た。


調べを進めて送検し,刑罰が確定しました。



異動の時期になった頃,またまた建設現場での,またまた労災かくし事件が発覚し,異動しなか

った私が,またまた担当することになりました。

往生際の悪い現場責任者で,事件発覚後も下請の監督に自分が知らなかったことにすると命令

し,それがばれた後も,話を持ちかけられたからそれに乗ってしまったと,責任転嫁するような供

述をしていました。


前回の苦い経験を生かし,繰り返し話を聞いて矛盾点を洗い出したため,結果,全てうそついてい

たと白状することになりました。


事件は7月に送検しましたので,この現行作成時点では刑罰は確定していません。


『「労災かくし」は犯罪です。』と書かれたポスターが,病院や工場などに貼り出されているのを見

かける機会が増えました。

監督署の私が勤務する事務室内にも2枚のポスターが貼られています。

これを見た人たちは,『労災かくし』は悪いことだなと考えると思いますが,実際,その「犯罪者」と

して検察庁に送られてしまうところまでは想像ついていないと思います。

しかし,言い方はおかしいのですが,本当に犯罪なのです。

発覚したら,前科がついてしまうのです。

報告した場合のデメリットと,報告せずにいてそれが発覚したときのデメリットを考えれば,明らか

に報告したほうがよいと思うのですが,それでもギャンブルに走ってしまい,労災かくし事件となる

ようです。

報告せずに,さらに発覚させないためには,相当のケアをしなければなりませんし,周りに対して

もちゃんと口止めをする必要があります

そしてなにより,そのことをずっと守り通す決意が必要なのです。

被災者やその家族,口止めした人などと,決してトラブルを起こしてはいけませんし,要求があれ

ば,全て話を呑む必要があります。少しでも断ったりケチったりすると,相手は不満に思います。

そこから話は漏れてしまい,ここまでの努力が水の泡となってしまいます。金に糸目をつけてはい

けないのです。


また,口止めした人が,飲んだ席などで,酒の肴にしないようにも注意が必要です。隣で誰が聞

いているかもわかりません。常に一緒に飲み歩くことも必要でしょう。

ギャンブルに出た以上,決して24時間気を抜いてはいけないのです。

その覚悟が出来ないのであれば,犯罪行為に手を出さないのが一番です。



1年数ヶ月経過した今日も,川崎のビル街の合間をぬって,駅と事務所を往復しています。歓楽

街もありますが,幸いにして,犯罪に巻き込まれたことはありません。


でも,一番安全な事務所内では,数々の犯罪に巻き込まれています。

今日も,目の前の電話がなるたびに,犯罪が起きていないことを祈りながら受話器を取っていま

す。


このような日々を送らずに済む日が来ることを願ってやみません。


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 福岡で元労働基準監督官が行うコンサルタント事務所

  原 労務安全衛生管理コンサルタント事務所

    労務安全衛生アドバイザー 原  論(さとし)
         (社会保険労務士

     http://www.roumuanzeneisei.jp
     http://acchandd.blog.bbiq.jp(ブログ)

 ※以前 acchanpapa の名前で書き込みしていました。

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